世界的指揮者で東京フィルハーモニー交響楽団名誉音楽監督を務めるチョン・ミョンフン氏が、2027年より伝統と格式を誇るイタリアのミラノ・スカラ座の音楽監督に就任することが発表されました。任期は2027年から2030年2月までの3年間です。
歴史的な意義
ミラノ・スカラ座は247年の歴史を持つ世界最高峰のオペラハウスであり、チョン・ミョンフン氏はアジア出身者として初めての音楽監督となります。現在音楽監督を務めるリッカルド・シャイー氏の契約満了(2026年末)後、その重責を引き継ぐことになります。
チョン氏はスカラ座の発表に際して「劇場と音楽家を支える」と決意を表明しています。同劇場とは1989年から長年にわたり緊密な関係を築き、これまでに9つのオペラ作品を指揮し、84回の公演と141回のコンサートに出演するなど、音楽監督を除けば最も出演回数の多い指揮者となっています。
2024年には、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団から名誉総監督にも任命され、ミラノ市民からの信頼も厚く、3月の同劇場でのコンサートでは満場の喝采を受けました。
チョン・ミョンフンのプロフィール
チョン・ミョンフン(鄭明勳、1953年1月22日〜)は韓国・ソウル生まれの世界的指揮者・ピアニストです。マンネス音楽学校、ジュリアード音楽院でピアノと指揮法を学び、1974年にはチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第2位に入賞しました。その後、ロサンゼルス・フィルハーモニックでカルロ・マリア・ジュリーニのアシスタントを務め、副指揮者に就任したことで本格的な指揮者キャリアをスタートさせました。
主な経歴は以下の通りです:
- ザールブリュッケン放送交響楽団音楽監督(1984~1989年)
- パリ・オペラ座バスティーユ音楽監督(1989~1994年)
- ローマ・サンタチェチーリア管弦楽団首席指揮者(1997~2005年)
- フランス国立放送フィル音楽監督(2000~2015年、現在は名誉音楽監督)
- ソウル・フィル音楽監督(2006~2015年)
- シュターツカペレ・ドレスデン首席客演指揮者(2012年~)
- 2001年より東京フィルハーモニー交響楽団と関係を築き、2016年9月に名誉音楽監督に就任
また、数々の栄誉も受けています:
- フランス政府からレジオンドヌール勲章コマンドール
- イタリア政府からイタリア星条旗勲章コンメンダトーレ
- イタリア共和国功労勲章グランデ・ウフィチャーレ
- アッビアーティ賞(ヴェネツィア・フェニーチェ劇場、サンタ・チェチーリア国立アカデミー、スカラ座フィルハーモニーでの指揮に対して)
- ヴェネツィア市およびフィレンツェ市からの「市の鍵」の授与
- 韓国政府からの金官勲章(最高の文化賞)
さらに2008年には、指揮者として初めて国連児童基金(ユニセフ)の親善大使に任命されており、音楽活動だけでなく国際的な社会貢献活動にも力を注いでいます。
スカラ座とのこれまでの関係
チョン・ミョンフンとミラノ・スカラ座の関係は1989年に始まり、これまでにドミトリ・ショスタコーヴィチ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(1992年)、リヒャルト・シュトラウス『サロメ』(1995年)、ジャコモ・プッチーニ『蝶々夫人』(2007年)、モーツァルト『イドメネオ』(2009年)など多彩なレパートリーを指揮してきました。
特にヴェルディ作品の権威的解釈者として知られ、『シモン・ボッカネグラ』(2016年および2018年)、『ドン・カルロ』(2017年)、『椿姫』(2019年)などを手掛けました。さらに2016年にはモスクワのボリショイ劇場でのスカラ座国際オペラツアーも担当しています。
東京フィルとの関係
チョン・ミョンフンと東京フィルハーモニー交響楽団は、2001年のポスト就任以来、四半世紀にわたる深い関係を築いてきました。2001年に同楽団のスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーに就任し、2010年より桂冠名誉指揮者、2016年9月からは名誉音楽監督を務めています。
2025年10月には定期演奏会に続き、10月から11月にかけて東京フィルとともにヨーロッパ7都市8公演、2週間にわたる演奏旅行の全公演を指揮する予定です。スカラ座の音楽監督就任後も東京フィルとの関係は継続され、緊密なコンビネーションを紡いでいくとのことです。
今後の展望
チョン・ミョンフン氏は現在72歳ですが、指揮者としての円熟期を迎え、今回のスカラ座音楽監督就任は彼の輝かしいキャリアの集大成とも言えるでしょう。これまで培ってきた世界各地のオーケストラとの関係や、幅広いレパートリーへの深い理解を活かし、ミラノ・スカラ座のさらなる国際的地位向上に貢献することが期待されています。
また、スカラ座の音楽監督就任は、アジア出身の音楽家が世界の頂点に立った象徴的な出来事であり、クラシック音楽界における多様性の進展を示すものでもあります。
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