皆さんはアンドラーシュ・シフというとどんなイメージをお持ちだろうか。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなど、ドイツ・オーストリア音楽の権威的なピアニストとして知られる彼だが、実は若き日にチャイコフスキー国際コンクールにも出場していた経歴を持つ。
その時に録音された貴重なロシア音楽の演奏は、シフの音楽家としての多面性を示す興味深い音源だ。
そのCDがこちら。
アンドラーシュ・シフ:第5回チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門でのライヴ録音[2枚組]
【収録情報】
Disc1
● ラフマニノフ:練習曲「音の絵」Op.33-7 変ホ長調
● リスト:演奏会用練習曲 第2番 ヘ短調 S144
● ショスタコーヴィチ:前奏曲とフーガ 変ニ長調 Op.87-15
● ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op.24
● アレクサンドル・ピルモフ:ピアノのためのスケルツォ(1974)
● チャイコフスキー:自作主題による変奏曲 ヘ長調 Op.19-6
● プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第3番 イ短調
Disc2
● チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 Op.23
● ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調 Op.15
1953年ハンガリー生まれのアンドラーシュ・シフは、コンクールで技巧を競うことよりも、音楽性を大切にしているピアニストとして知られています。しかし、若い頃は国策としてコンクールに参加することを求められ、1974年に開催された「第5回チャイコフスキー国際コンクール」と、その翌年のリーズ国際コンクールに参加していました。シフはその時、1位こそ獲得できなかったものの、チャイコフスキー4位(1位はガヴリーロフ)、リーズ3位(1位はアレクセーエフ)という結果を残し、注目されることとなります。
このアルバムはそのチャイコフスキー・コンクールでの記録です。21歳のシフは、ラフマニノフ、リスト、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチと様々な作品を、そしてファイナルでは2曲の協奏曲を演奏していますが、審査員たちの評価は割れてしまいました。
このコンクールでのシフの演奏を聴いたソ連の音楽評論家レオニード・ガッケルは、その時の感想を「最初の音から、その賞賛すべき力でシフは私を魅了しました。何というタッチでしょう! まるで炎を帯びたかのようにエネルギーを蓄えた指から生まれる演奏は、創造の精神における究極の活動です」と記しています。若きシフの足跡を辿る貴重な2枚組です。CD販売ページHMVより引用https://www.hmv.co.jp/en/news/article/1610090001/
ここでの演奏では、いわゆるシフの代名詞とも言えるような「ウィンナートーン」の演奏とは全く異なる、重厚で抒情的なロシア音楽の世界が存分に繰り広げられている。
この録音からは、世界的なピアニストの知られざる一面を知ることができるだけでなく、若き日の情熱と技巧が融合した貴重な記録としても価値があるだろう。
また、シフは2017年には著書「静寂から音楽が生まれる」(日本語版が2019年春秋社より刊行)を、ベーレンライター&ヘンシェル社から刊行している。
コメントを残す