【書籍紹介】現代最高の巨匠が語る音楽と人生–ヘルベルト・ブロムシュテット自伝『音楽こそわが天命』

97歳の現役指揮者が初めて語る音楽哲学と信仰の旅

「私たちは完全無欠なものに到達することはできません。しかしそれはつねに頭に浮かんでいるのです」

年間80回もの演奏会を指揮しながら、現在97歳を迎えた世界的指揮者ヘルベルト・ブロムシュテット。NHK交響楽団の桂冠名誉指揮者でもある彼が、初めて自らの音楽人生と深い信仰、そして芸術への姿勢を語った貴重な自伝が『音楽こそわが天命』です。ドイツの音楽ジャーナリスト、ユリア・スピノーラの丁寧な聞き手のもと、ブロムシュテットの音楽に対する真摯な姿勢と深い洞察が余すところなく記録されています。

内容の特徴――音楽と信仰の融合が生み出す芸術性

本書はインタビュー形式でまとめられていますが、単なる対談集にとどまりません。マルケヴィッチ、バーンスタイン、ケージら20世紀の大音楽家たちとの交流、バッハ、ベートーヴェン、ブルックナーらドイツ音楽への本来のこだわりと敬愛、そしてベルワルドやステンハマルといった祖国スウェーデンの作曲家への尽きせぬ愛情が語られます。

特に興味深いのは、彼の信仰と音楽の結びつきです。七日安息日教会の敬虔な信者であるブロムシュテットは、宗教と音楽活動の両立に苦心した経験を率直に語っています。土曜日は演奏会を行わないという信条を貫きながらも、世界最高峰のオーケストラとの共演を実現させてきた道のりには、芸術家としての信念の強さが表れています。

章立てと構成――時代と場所を超えた音楽の旅

本書は以下のような章で構成されています:

  1. ドレスデンでのインタヴュー
  2. 幼年時代、家族、若いころの音楽的感動
  3. コペンハーゲンでの週末
  4. 指揮者たちとの出会い
  5. 契約初期と旅行について
  6. ライプツィヒでの週末
  7. 作曲家は最初にして最後の権威である
  8. ルツェルンにて

これらの章では、1927年に米国で生まれ、スウェーデンで育ち、ドレスデン、サンフランシスコ、ライプツィヒと世界各地で活躍してきたマエストロの足跡が、時代の流れとともに描かれています。東西冷戦の緊張下でのドレスデン・シュターツカペレ時代から、旧東ドイツの名門ゲヴァントハウス管弦楽団での活動まで、音楽と政治が交差する20世紀後半の歴史が、彼の目を通して生き生きと伝えられています。

読者の声――静かなる情熱に魅了される

本書に寄せられたレビューからは、ブロムシュテットの人柄と音楽性に魅了された読者の声が伝わってきます。

「目に見えてカリスマという存在からは遠いが、真面目で深い教養を備えた指揮者が年齢を重ねて紡ぎ出す音楽は、意外にも、浮揚感を持ち、良い意味で軽やかに響く。本書で何故彼の指揮が素晴らしいのか、見えてきた。音楽に対する真摯な姿勢には、筋は通って物静かで力強い。そんな彼の音楽の哲学には是非触れていただきたい」(読書メーターより)

「90代に入ってなお世界の第一線で活躍し続ける巨匠指揮者へのインタビュー集。自ら作曲家に近いと考え、作曲家の筆の跡をたどって再現しようとする音楽観や、その音楽哲学に惚れ込みました。人生経験がなければ表現できない演奏するとはどういうことか、実に謙虚に、そして寛容的です」(Toshiakiさん)

「楽しいしい本。伝記というより、ブロムシュテットの音楽性や考え方を知ることのできる作品。何度読み返しても、新しく学べることがある」(Kさん)

こうしたレビューからは、単なる自伝や回想録ではなく、音楽についての深い考察と豊かな人生哲学が詰まった一冊であることがうかがえます。

出版情報と購入案内

『ヘルベルト・ブロムシュテット自伝 音楽こそわが天命』

  • 著者:ヘルベルト・ブロムシュテット
  • 聞き手:ユリア・スピノーラ
  • 訳者:力武京子
  • 日本語版監修:樋口隆一
  • 出版社:アルテスパブリッシング
  • 発売日:2018年10月22日
  • 価格:2,750円(税込)
  • 判型:四六判・上製
  • ページ数:264頁(口絵8頁)
  • ISBN:978-4-86559-192-7

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ヘルベルト・ブロムシュテットとは

1927年、米国生まれのスウェーデン人指揮者。ストックホルム王立音楽院やウプサラ大学で学び、1954年にストックホルム・フィルでデビュー。その後、オスロ・フィル、デンマーク放送交響楽団、ドレスデン・シュターツカペレ(1975-85年)、サンフランシスコ交響楽団(1985-95年)、NDRシンフォニー管弦楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1998-2005年)など世界的オーケストラの首席指揮者・音楽監督を歴任。2016年にはNHK交響楽団の桂冠名誉指揮者に就任しました。

とりわけ、バッハ、ベートーヴェン、ブルックナー、シューベルトなどのドイツ・オーストリア音楽のスペシャリストとして知られ、その透明感あふれる音色と緻密な構成力は、派手さはないものの確固たる音楽性に裏打ちされた説得力を持っています。現在97歳になった今も、年間80回を超える演奏会を行う驚異的な活力と芸術への情熱は、まさに「音楽こそわが天命」という言葉通りの生き方を体現しています。

おわりに――深い音楽と宗教観が融合した知性の輝き

「私が生きているのは奇跡です。私の両親は健康だったし、それに私は多くの人々に祝福されてきました。それは偶然ではなく、恵みなのです」と語るブロムシュテット。彼の言葉の端々には、謙虚さと同時に音楽に対する揺るぎない確信が感じられます。

指揮者という職業を単なる技術や表現だけでなく、真理の探究と捉える姿勢は、インタビュアーであるユリア・スピノーラのまなざしを通して、読者にも鮮やかに伝わってきます。この一冊は、クラシック音楽ファンはもちろん、芸術に対する真摯な姿勢や人生哲学に興味を持つすべての人々に、静かな感動と深い洞察をもたらしてくれるでしょう。


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